義母の夢を見た。
私達は割と仲の良い嫁と姑だったけれど、彼女のことで、悔やんでいることが一つある。
夫の母、私にとっての義母は、とても綺麗な顔立ちの人で、白髪もとても似合っていて上品な女性だった。若い頃はかなりの美女だったと思う。義父の猛烈アプローチで結婚したみたい。義母が住んでた家を掃除したら、義父からのラブレターが大量に出てきた。大恋愛だったんだろうな。
義父はかなりヤンチャな人だったらしく、大酒飲みで金遣いも荒くて、気が小さいのにすぐ喧嘩ばかりして大変だったらしい(夫談)
義母はそんな義父を支えつつ、家計を支えるために保険の外交員として働いてみたら、あっという間に売れっ子になったとか。実は義父より稼ぎはあったらしい。かなりやり手だったんだろうなぁ。
自分が稼げるようになっても離婚せず、メンドクサイ義父に尽くして、最期は義父を看取った。
その後、義母は痴呆が急激に加速した。
知らないうちに色んな詐欺に遭っていて、とても一人で暮らせる状態ではなくなったので、夫が施設に入れた。
結局義母は、その施設から出ることなく昨年他界した。
私は、義母が施設で知り合った、義母の『彼氏』のことが、未だに気になってる。
義母に彼氏が出来たのは、施設に入所して間もない頃。
「母さんが、施設の男と自分の部屋で寝てたらしい…」
夫がすっごい深刻な顔で私にそう告げた。
義母は個室で暮してたんだけど、そこに通い婚してる男がいて、二人は義母のベッドで添い寝してたんだって。
なぁんだ、添い寝か。私はまずそう思ったんだけど、夫にとってはかなりのショックだったらしく、怒ってるような泣いてるような顔で続けた。
「前から親しくしてたみたいだけど、手を繋いで寝てたらしいよ。夜も昼も。職員が引き離しても、また男が来るらしい。母さんも母さんだよな。父さんの前で…」
夫は義母の部屋に小さな仏壇を置いていた。
義父と義母の関係は、一言でいうと共依存。アル中の義父と、それを支える献身的な妻というスタイル。義父が他界してから、義母は一気に弱って呆けた。それを夫は夫婦愛だと信じていて、片時も離れないようにと仏壇を義母の部屋に置いたのだ。
いくつになっても息子としては母は聖母だから、母親の女の顔なんか見たくなかったのだろう。増して老いぼれの恋、夫を亡くして年老いて呆けた母が、色っぽい目で男を見てる姿を見るのは、夫としてはかなりの苦痛だったみたい。
だけど私は、義母の事を心から尊敬した。
元々割と仲が良い嫁と姑ではあるが、義母が義父に尽くしてる間は、義母の事はあまり好きになれなかった。なんだか義母の、義父への愛に違和感があったから。
でも、呆けて施設に入って彼氏が出来るって、なんかすごいしかっこいい。
私も年老いたらそうなりたい。人生で最後の恋愛をしてみたい。
身体はお互い求められない歳なのに、手を繋いで寄り添って眠るなんて、なんてロマンチックなんだろう。
痴呆って周りは大変だけど、幸せな老後なんだなって思ったのもこの時。
義母の施設に行ったら、彼氏が義母の部屋に来ていて、二人でお菓子を食べていた。
お相手の彼氏も、なかなかのイケメン。身体も大きくて若い頃はさぞ女を泣かせたんだろうね。
私は義母に
「素敵なボーイフレンドだね」
と声を掛けたら
「そうなの素敵でしょ。この人と私の家に引っ越すの」
と言い出した。
施設に入る前、一人で暮らしていた家に、男と引っ越すと言ってるらしい。
その家は賃貸に出したので、もちろん引っ越すことはできない。それより私は少し好奇心から、この会話を続けてみた。
「あらお義母さん、そしたらお義父さんはどうするの?この仏壇は誰の?」
「私には3人息子がいるけど、夫はいないわよ。仏壇なんか無いわよ」
「え、そうだっけ?息子さんのお父さんはいないの?お義母さんの旦那さんだと思うけど」
「わからないわぁ、その仏壇、誰が持ってきたのかしらねぇ。気味悪いわ。あなた捨ててきて」
ビックリした。
いつもこの仏壇に向かって、義父と会話をしていた義母が、義父のことも思い出せないようだし、仏壇も誰のかわからないと言い出す。
呆けてるからこそ演技ではなさそう。どうも本気でそう思ってる。
人って都合よく自分のストーリーを脳内変換できるんだなと、改めて思う。
この彼氏、義父とよく似た高圧的でヤンチャなタイプだったみたいで、義母が入所する前は別の彼女がいたみたい。
で、そっちともすっぱり切れてないから時々もめたりもして、その都度義母が
「二人で私の家に引っ越す」
って言って大騒ぎ。タクシー呼んで本当に帰ろうともしたみたい。
その度私達夫婦が施設から呼び出され、説明を聞いて謝罪し、夫が義母に説教する。
「母さんいい加減にしてよ。もう母さんは一人では暮らせないんだよ。ここで暮らしていくんだから‥それとあの男の人も、部屋に入れないで。母さんには父さんがいるでしょう?」
「私は引っ越したいのよ。あなた誰だか知らないけど私の引っ越し手伝って。あの人は私の大事な人なのよ。父さんなんていないわよ」
義母は呆けて息子がわからない。時々会いに来る息子より、毎日一緒の施設の彼氏。
そりゃそうだよね、お義母さんあなたは正しい。私は密かにそう思ってた。
夫には『お義母さんの最後の恋なんだから、見守ってあげようよ。幸いお相手も悪い人じゃないし・・』と言って聞かせた。
どうせそのまま老いていく。
私はそっと二人の時間を過ごさせてあげたかった。
身体で抱き合えなくて、呆けてもなお、男と女で在る二人。
これって実は、史上最強のプラトニックカップルじゃないのかなぁなんて思ったりして。そして密かにエロスも感じる。なんだろうね、純愛というよりエロティック。
だけど夫は、彼氏の息子さんと会ったり、施設の職員と話し合って、結局義母を別の階の部屋に移動させた。患者は階移動が自力では出来ないシステムになってるため、離れ離れにしたらお別れするだろうという魂胆らしい。
義母が階を移動する引っ越しをしたら、あっという間に二人はお互いを忘却したらしい。
彼氏は別の女性の部屋に通うようになったそうだ。
義母は痴呆が更に加速した。無口になり、横になったまま過ごす日が増えた。
もう彼氏のことを尋ねても、義父のことを尋ねても、どっちもわからなくなっていた。
なにも引き離さなくても…義母が未来の自分のように見えてくる。
お別れは悲しいけど、忘れてしまえるのはいいな。
だけど義母をみていると、記憶は忘却しても、心は何かを失ったことを知ってる気がする。人って、女ってすごいよね、偉大だね。
お義母さん、あなたは恋してたんだよ。そして失って、今は悲しんでるんだよ。
もう記憶はないかもしれないけど、それは素敵な体験だったね。
せめて美しい思い出になればよかったのかな。思い出なんかないほうが楽なのかな。
母の葬儀は家族葬で、身内だけだった。
みんなで母の思い出話をしながら、ゆっくり一緒に過ごして見送った。
「お義母さん、最期は幸せだったのかなぁ。施設じゃなくても私が看取ってもよかったのに…」
義母の介護は、私より夫が大反対で施設に入所させた。
実の親なのによくわからない。
まぁ、そうゆう私も自分の親は看取る気は無いんだけど。
「施設でも良くしてもらえて、幸せだったと思うよ。ほら最後に恋もしてたしさ」
夫がそう言うから、軽く殺意を覚えた。
その恋を無理矢理引き離して、お義母さんの心まで閉ざしたのはキミなんだよね。
息子の正義を振りかざして、義母の『オンナ』を殺めたのは夫。
息子の立場としては、そうせざるを得ないもんなのかな、わからない。
私が呆けて施設に入ったら、思う存分最後の恋を楽しみたい。
お義母さん、その時は私を見守って。
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