これは、昔わたくしがお水の世界にいたころのお話で、今とは世界もずいぶん違うのかもしれません。バブル前→バブル崩壊→不景気時代をずっとお水してました。そんな遠い記憶の物語…(だからクレームとか受け付けません、私の経験と主観です)
客として通い始めてくれた未来の夫(当時)は、毒も吐くけど紳士で、遊び慣れてて、他のホステスからも人気があった。
東京から西日本を、いつも出張で駆け巡っていて、この土地に来ると必ずお店に顔を出してくれるようになっていた。部下を連れてくることもあるし、一人のこともある。
毎回カードで支払いして金払いも良いし、人も食べ物も仕事も何もかも、好き嫌いが明確で余計な気遣いが要らない。綺麗な標準語で毒舌だと、何となく嫌味もない感じでサラリと流せる感じも良かった。
そんな新参者を、お店のオーナーママが放っておくわけがなかった。
ママは、太い客とはすぐに寝る。それは口説かれて断ったことがある客からいつも聞かされてたし、どの客もママから言われた口説き文句が同じだから、嘘じゃないこともわかってた。
ママはルパンの不二子ちゃんみたいな、今で言えば叶姉妹のような、絵に描いたようなボンキュッボンで、胸はアメリカで整形して作ってると自ら言ってた。作り物でもやっぱりすごいボリュームだし、ノーブラでドレスを着ていると、女が見ても惚れ惚れする身体、思わず触りたくなる。
顔はクールビューティー系の美人。韓国の血が混じってるらしく、小顔で全体的に華奢な印象。
裏社会で有名な男性の子供を産んだので、将来もお店も安泰なんだって。お姐さん方からそう聞いて、そうゆう人生もあるんだなぁってすごく納得した。まだまだお水の本当の世界を私は知らなかった。
それで、ママが私の未来の夫に向かって
「ねぇアタシ今、空き家なんよ。いま、男がおらへんの」
と階段の踊り場で言ってるのを聞いてしまった。
何故階段の踊り場だったのか忘れてしまったけど、何か忘れ物を渡そうと夫を追いかけたら、ママが夫に向かってしなだれかかって囁いていたという構図。
私はまだ夫とお付き合いする前だったので『あーまた餌食が一人出た』と思ったんだけど、夫の返しが
「俺、じゅりん目当てだから。ママに興味ない」
とピシャリとしたもので驚いた。
私は入店してからずっとママに客の目の前で「アタシこの子嫌いやわ」と言われ続けてたので、なんか夫のその一言で痛快な気分になって、思わずガッツポーズw
男として何も意識していなかった夫が、少し良いなと思った瞬間。
私は心のどこかで、店に来る客をバカにしていたし、軽蔑もしていた。
高いお金を払って見栄を張って、商売女に囲まれて自尊心を保つ。
下心もあるくせに紳士ぶって、他では相手にされないからここに来るくせに。
風俗は絶対に行かないとか嫌とか言いながら、最後に求めるものは同じところ。
途中の『恋愛ごっこ』を存分に味わいたいのなら、そのままプラトニックでも良いはずなのにバカが…
私は未来の夫の事も、他の客と同じように思ってた。ただの客、ただの見栄っ張り、ただの小金持ち。
だから、彼はそれなりに好みの範囲に入る女なら、本当は誰でも良いのだろうとも思ってた。たまたま今は私。そして私の代わりは西日本のあちこちにいるのだろう。博多のホステスにもめちゃ口説かれてるって自慢してたしな。
そして、あのママに言い寄られたら、きっとあっさりママに鞍替えする。私は当時、若さだけは勝てるけど、その他のすべてに対してママに負けていたし、この品の良いご新規さん(夫)は、そのうちママに取られてしまうだろうとも予想はしていた。
お店のお姐さんが教えてくれたのだけど、質の良い新規客を掴まえて、その客をママが寝取っても、売上は口座の担当に付けてもらえる。それで店に通う頻度が上がるなら別に気にしなくていい。逆に自分の身体を使わないでママに営業してもらえて一石二鳥だと。
その代わり、お店を移るときにその客が来てくれるかどうかはわからない。ママはホステスに客を付けるのではなく、自分に付けて他の店に流したくないだけ。この店に居続ける限りは、ママの餌食になりそうな客はそのまま捧げておいたほうが得だと、そう教わっていた。
後々よく分かったが、高級クラブには2種類のママがいる。
ひとつは自分の存在を脇役にして、ホステス達のフォローに努める女将タイプ。
もうひとつは自分が主役となって、誰よりも輝く主役タイプ。
あきらかにこの店のママは後者。そしてホステスのことは微塵も信用していない。
この街で毛並みの違う私は、最初からママに、相当嫌われていた。
この街の方言を喋らないで生まれた土地の方言をわざと誇張して使っていたことも(そのほうが男受けは絶対に良かった)私の少しだらしない(だが男受けが良い)顔も、ファッションセンス(あまり派手なものを好まない)も、中途半端な語学力やユーモアも、客の気持ちを先読みすることも、何もかも嫌いと言われていた。
客席でママと対面に座っている時、私の顔をママの手で口元を隠して
「じゅりんは鼻から上はこないに綺麗やのに、口元はなんてだらしないのかしらねぇ」
と言われたこともある。
嫌いなタイプの子なのに、マネージャーが雇ってしまったから仕方ない。そんな風にいつも言われてた。だからいつも仕事で見返してやろうと思ってた。私が辞めたら後悔するほどに、ここでの居場所を確立しようと誓って、ママのどんな嫌がらせも笑って応えた。
そこでまさかの新参客の応戦(笑)
あの人やるなぁ~って、未来の夫に心で拍手。
ホステスのお姐さん達の応援もめっちゃ励みだったけど、新参客の応戦はポイントが100倍くらい高い気がした。
後で夫に聞いた話では、最初からママが私をバカにするのが許せなかったらしい。
もちろんそれとは別に、私の事は一目惚れだったともいわれて、なんだか初めて『お店で出会った人でも好きになる事もあるかもしれない』と思った。
あれは恋の予感?
それからも夫は時々私と同伴してくれて、たまにはお休み前日にバイトしていたクラブにも、そのまま同伴で来てくれて、朝まで私のバイトに付き合ってタクシーで送ってくれたりした。
私のホステスとしての営業方法は今までと同じ。嘘をつき、まるでプラトニックのままで、曖昧に客とお付き合いしている風で引っ張り続ける。
こんな風に↓
それとは別に、ちゃんと彼氏も複数持っていた(笑)
いま考えると若さだけで頑張れてた気がする。時間は本当になかったけど、よく彼氏も複数回していられたなぁって思う。
夫は私の嘘を見抜いていたと思うけれど、咎めることも手を出してくることもしなかった。恐らく夫の方にも愛人が何人かいたと思う。
夫には前に不倫していた忘れられない女性がいたそうで、良くその話を聞かされた。
結婚したのは成り行きで、好きとか嫌いではなく腐れ縁だったこと。その後に出会った女性が忘れられない人で、初めて本気の不倫に堕ちた。
離婚も真剣に考えたけど、まだ娘が小さいから親としての責任を考えて、離婚は出来なかったそうだ。仕事も起業したばかり、何もかも綱渡りの毎日。彼女の存在だけが心の潤いだったらしい(ってか、そこは小さな娘ちゃんじゃなかったの??と思うんだけど言わないけど)
彼女は最後に、夫と独身男との二股をかけて、独身男のほうの子を宿り、そのまま結婚して夫の元を去ったらしい。
しかし妊娠中に何度も呼び出され、夫も未練たらしく会いに行って、彼女が出産したら突然捨てられたんだそうだ。
「こんな育児に疲れ果てた私の姿なんか、あなたには見せられない」
って、電話で告げられてそれっきり。
その後、子供の写真を一枚だけ送ってくれたんだって。その子は本当は自分の子なんじゃないかと今も思ってると、うっすらと涙を溜めて何度も話す未来の夫。
何度目か同じ話を聞いた後、私はもう面倒になってつい本音を漏らした。
どうせ、どこの店でもこの話を聞かせてるんだろう、バカみたい。
「あなたの心の時間は、その時からずっと止まってるのね。そしてその時計をまた進めてくれる人を探してるんだと思う」
「ああ、確かにそうかもしれない、俺は遊びはするけど、あれほど一人の人を好きと思えたことが無いよ」
「だったら今さ、アナタ甘えてるんじゃない?その時計、誰にも直せない。自分で直さないと無理だもん。誰かに進めてもらおうなんて甘えじゃん。バカじゃないの?グズグズ言ったって過去には戻れないし、自己憐憫浸って酔っ払って語ってるのって、かなりかっこわるいよ」
「え、俺が?かっこわるいの?自分で直すの?どうやって」
「そうだよ、悪いけどあんまりそうゆうの、好きじゃない。きっと他の女の子にも語ってると思うけど、みんな『おぇ~』って思ってるよ!自分で時間を進められずに過去に立ち止まったまま、昔の女の事をロマンチックに語るオッサンなんて、客じゃなかったら悪いけど切り捨てるね。たまんない、おぇ~だよ!」
これが夫が私に、真に恋に落ちた瞬間だった…そうだ(笑)
結局、夫がドМだったってことかな(笑)
叱られたがり?
私が恋に落ちた瞬間は、もう少し後だけどね。
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